6/4についに公開された、『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』
2019年11月の3rdライブで発表されて以来待ちに待った新作です。
私も初日から10回以上観劇してスタァライトを浴びまくっている日々です。幸せ。
何やら劇場版の評判が俄かに広がり始めて初見の方も気になって観に行く人が増えているみたいで…いやぁ、嬉しいですね。
とはいえ今回の劇場版だけではそれぞれの関係性等は深く触れられないので、出来ればTVアニメシリーズ、去年公開されたTVアニメ総集編『劇場版再生産総集編 ロンド・ロンド・ロンド』を履修してからの方がより世界観に入り込みやすい内容になっているかな?と思うので是非そちらもチェックして欲しいところです。
何しろちゃんと履修していた私でさえ初めて観た時出てきた感想が
「カルピスの原液みたいな濃度の映像と音を脳内に直でぶち込まれて気付いたら映画館で大の字になってた。」
だったので…。あとなんかリコピン大量摂取してお肌がツヤツヤになった気がする。
演劇の知識がある人、感覚派の人なら知識ゼロでも最高の{歌劇体験}ができると思います。
さて、ではここからはTVアニメシリーズ、舞台版、コミカライズ、ライブも何十回と再演したスタァライトオタクの新作劇場版への感想をつらつらと語りたいと思います。
私は演劇、宗教、芸術…その辺のことには一切の知識がないため、高解像度な解釈は出来ないかと思いますが、その辺りは専攻の舞台創造科(※スタァライトファンの呼称)にお任せして。取り留めのない雑感として受け流して頂けたらなと思います。というかアニメの感想を述べるのにここまでの知識要求してくるの冷静に考えたら意味わかんねぇな。
当然のことながらネタバレ⚠️をバリバリに含んで語りますので、まだ観てないよーって方は見ちゃダメですよ。
わかりましたか?
➡わかります。
⦵再生産総集編ロンド・ロンド・ロンドとは何だったのか?
今回の劇場版を語る上でこれまでスタァライトを追いかけてきた身としてはまずここから語らねばなりません。何しろ最後の最後に「続劇」というテロップが出るのですから、今回の新作劇場版と無関係な筈はありません。
私も正直明確な考察は出来ていません。が、無い頭を振り絞って考えた結果あれは
TVアニメの時間軸より更に進んだ時間軸で、大場ななが再演(再編集)した舞台
なのでは無いかな、という結論に至りました。
新作劇場版でななが「再演の果てに、私たちの死を見た」というような台詞を言っていますが、その"再演の果て"というのは、TVアニメシリーズ中の再演ではなく、このロンド・ロンド・ロンド(以下ロロロ)のことなのではないか?と思われます。仮に「再演の果て」がTVアニメ版の再演だとすると辻褄が合わないんです。
「舞台少女の死」とはどういうことかと端的に言えば「停滞し、慢心すること」だと思います。ですがTVアニメ版の再演の目的は「あの眩しかった時間を繰り返すこと」なので「停滞を望んでいる」のと同義です。彼女自らが「停滞」という道を選んだのですから、それが結果的に「舞台少女として死ぬこと」に繋がるとはこの時はまだ気付いていない可能性が高いです。ななは先に進ませないことでみんなを守りたかった訳ですからね。
なのであの時点で「舞台少女の死」を見ていたとは考えにくいです。
ではロロロの再演が行われたのはいつ頃なのでしょうか?
TVアニメ版より更に進んだ時間軸とはいってもそこまで先の未来ではなく、100回目の聖翔祭を終えた後だと思われます。
第100回聖翔祭を切っ掛けに、そこで燃え尽きた華恋を始めとした8人が停滞し次の目標に迷い、或いは心のどこかに何らかの心残りを抱え、明らかに眩しさとはかけ離れていく皆を見てななは再演をしようと決意し、100回目の聖翔祭後に開かれたオーディションに臨んだのではないでしょうか。その結果、再演された舞台こそがロロロだった。
そこでななは「舞台少女の死」を見て、キリンに「わかります…か?」と問われて「わかります。」と答えるあのシーンに繋がり、更には今回の「皆殺しのレヴュー」へと続く流れになっているのではないかなと思います。
ところがななの手には負えないほど致命的な人物が一人いました。愛城華恋です。
他の皆が舞台少女として飢えて乾いて次の食糧を求めるのに対し、愛城華恋だけは満たされている。*1
何も求めない彼女はそもそも舞台少女として成立するのか?
それはもう死ぬとか以前の問題で「舞台少女としての存在意義」すら危ぶまれる状況に陥っていると言えるのではないでしょうか。
これは新作劇場版の制作が発表された当時、一番最初に出ていた特報PVからの画像です。(現在は非公開になっている)
この画像だけでも情報量が凄いのですが、ここで特に注目したいのが、
「卒業しても、あなたは舞台少女を演じ続けることができるでしょうか?」
という台詞です。
これ、何だか妙な言い回しだと思いませんか?
普通なら「舞台少女として演じ続けることが出来るでしょうか?」という文言になる筈です。ところがここでは"舞台少女を"となっている。この文だとまるで"本来は舞台少女ではない人が今、舞台少女という役を演じている"という風に捉えられます。これが誰から誰の台詞かは分かりませんが、先程述べたこととこの台詞のニュアンスを汲み取ると恐らく、「キリンから愛城華恋へ投げかけられた言葉」ではないかなと推測します。
華恋は「ひかりちゃんと二人でスタァライトという舞台に立つこと」を運命の舞台に設定し、12年間舞台少女として情熱を燃やし続けてきました。そしてその夢は第100回聖翔祭で見事に叶えられた。叶えてしまった。文字通りゴールしてしまったんです。舞台少女:愛城華恋としての舞台はアニメ12話の時点でエンドロールを迎えてしまった。だとするなら、そこから先の愛城華恋って一体何者なのでしょう?
あの瞬間、愛城華恋は舞台少女では無くなってしまったのなら、そこから先は…?
という問いがこの一文に込められているように感じます。
・「待ってたよ、ひかりちゃん。」
ロロロの最後のシーン。
誰も居ない舞台で一人、ななが誰かを待っていてそこへ神楽ひかりが現れる所で終わります。あのシーンの意味合いとしては、愛城華恋の危機的状況を打破しようと大場ななが共演者として抜擢したのが神楽ひかりだった、ということを表した場面だったのかなという解釈です。
恐らくひかりも華恋が舞台少女として危険な道を選んでしまった、ということには気付いていると思います。そしてその果てには何が待ち受けているのかも。ひかりは唯一、「舞台少女としての死」を経験している人物ですからね。
愛城華恋を運命の呪縛から解き放てるのは、その呪縛を掛けた張本人の神楽ひかりの他いません。
愛城華恋の救出は神楽ひかりに任せたよ、というななからのSOSを受けて華恋を救うためにひかりがレヴューを仕掛けた、というのが新作劇場版のあの冒頭シーンだったのではないでしょうか。
⦵トマトとは何か?
さてここからようやく新作劇場版の感想に入ります。最後まで書き終わるのか心配になってきました。
まず冒頭シーン。
いきなりトマトが爆発します。
未だかつてトマトの爆発から盛大に始まる映画があったでしょうか。否ない。(反語)
分かっていても毎回爆音でびっくりします。
今回あらゆる場面で出てくるトマト。あれは一体何なんでしょう?
色んな説が考えられますが、一言でいうと「命の情熱」なのかなと。あるいは単純に「糧」「燃料」みたいなことでもあるかもしれません。
上記の監督のインタビューの中でも語られていますが、
「『トマト』は観客が燃えて落ちたあとに残されたモノ、それを『食らう』覚悟が演者を舞台に立たせている」
という構図になっているそうです。
つまりあのトマトは観客が舞台を求めて情熱を燃やし、演者に託したもの。ということになります。観客が情熱を燃やして育て「完成した命」を「いただく」ということ。
私たちが食事の前に「いただきます」と挨拶して食べるのは、「その命を頂きます」と感謝を示すための儀礼ですよね。きっとそれと同じことなのだと思います。
観客の命に感謝してそれを食らうことで舞台少女の血肉とする行為、それがトマトを齧るということで表現されているのだろうなと。
何故それが「トマト」なのか?というのは再生賛美曲の歌詞にもある「禁断の果実」という意味も含んでいると考えられますし、更にはトマトの花言葉が「完成美」「感謝」ということも理由かと思います。
禁断の果実を食べたことは人間の原罪とされていますし、スタァライトの世界において星(スタァ)を目指そうとする舞台少女とは罪深き存在だとされています。
完成したものを壊す覚悟、命に感謝し食らう覚悟があるか?つまり、罪を背負ってでも舞台に立つ覚悟があるか?
という問い掛けを含んでいるのだと思います。
では何故冒頭のトマトは弾けていたのか?
トマトは急激に水分を摂取すると割れてしまうんだそうです。
これをスタァライト的に考えれば、「運命の舞台の達成という潤いを一気に摂取してしまったために弾けた華恋のトマト」です。(強引)
華恋はずっと情熱を燃やし続けた、「ひかりちゃんと一緒にスタァライトする」という夢を果たしてしまいました。通常の舞台少女ならば舞台が終われば空っぽになり、また次の舞台(燃料)を求めます。お腹が空けば食糧を求める。野生の本能ですよね。
ところが華恋にとっては「ひかりちゃんとスタァライトする」がゴールだったわけです。ゴールにたどり着いた華恋は達成感で満たされていて、お腹が空くこともなければ食糧を求めることもない。潤いを浴びたトマトは手を付けられず放置され、やがて破裂してしまった。そして舞台少女:愛城華恋としての命も。
…みたいなことがあの冒頭のトマト爆発なのかなという解釈をしましたが、ちょっと強引な気もしますね。笑
でもほら、あのトマトなんか瑞々しかったし。
要するにトマトは「誰かが情熱を燃やし尽くして育てた命の象徴」なのかもしれません。
冒頭で潰れたトマトは華恋が情熱を燃やした舞台が無くなってしまったことを表現していたのだと思います。
⦵それぞれの進路希望が示す道
わぁーい!推しの英語カッコイイー!やったー!(IQ2)
なんて思う余裕は初見時2ミリもありませんでした。(1ミリはあったんかい)
※筆者はひかり推し
タイトルロゴドーン!の後、先輩となった華恋ちゃんが後輩の校内見学の案内をするところから本編が始まります。
それと同時進行で流れるのが「進路希望調査面談」のシーンです。
あの進路希望面談で登場する順番は「舞台の上で生きる覚悟が決まっている順」だと個人的には思っていて、真矢クロに続き3番手に出てくるのが何とまひるちゃんというのがすごく良いんですよね。
舞台版でもアニメ版でも「真昼の星になりたいな」「あたたかいスタァになりたい」と願望系で語っていた彼女が、
「みんなを笑顔にするスタァに、なります。」
と言い切るんです。まひるちゃんの成長を感じると共に、キャストである岩田陽葵さん自身*2 のことにも思いを馳せてしまったりして、ずっと追っている舞台創造科なら誰しもグッと来るシーンではないでしょうか。
香子の進路希望表もいいですよね。
第一希望欄に枠をはみ出すくらいデカデカと「花柳彗仙 襲名予定」とだけ書いてるのが何とも彼女らしくて好きです。カッコイイ。
そんな中、まず最初に衝撃的な進路希望を提出するのが純那ちゃんです。
「大学進学、か…」と櫻木先生が言い出した時は思わず声が出そうになりました。
その場面の前に演技実習の舞台で、「私は征かねばならないんだ…あの大海原へ!」という台詞を高らかに言う純那ちゃんを映してくる辺り、制作チームは人の心が無いとしか思えませんね。(言い過ぎ)
彼女のことはまた後程のレヴューパート部分で詳しく触れようと思います。
そしてこの作品の主人公である愛城華恋の進路希望表は真っ白。空欄。これは予想は出来ていたとはいえ「やっぱりか…」という軽いショックはありました。
が、それを遥かに上回る衝撃の事実が目に飛び込んできます。
「神楽ひかり 自主退学」
おいおいおいおい待て待て待てまて!!?!?
私はここで「何で!?」と立ち上がりそうになりました。(映画館ではお静かに)
またどんどん行っちゃったのかよ、ひかりちゃん……いやてか待って、英語しゃべってる…ペラペラじゃん、うわカッコイイ…と脳死で思っていましたが、めちゃくちゃショッキングでしたね。
華恋ちゃんの気持ちを考えてセンチメンタルな気分になりました。どんな気持ちで見送ったの…それともまた何も言わずに退学した…?
初見時は何かやるべきことがあってロンドンに帰ったのかと思っていましたが、まさかあんな理由があったとは…。詳しくは後程、かれひかの項目で語りますのでここでは割愛します。
ちなみに進路希望調査シーンでの登場順は、
真矢・クロディーヌ・まひる・香子・双葉・なな・純那・華恋
こうして並べてみるとやっぱり「舞台で生きる覚悟が出来ている順」に並んでそうな感じはしますね。
⦵ワイルドスクリーーーンバロック開幕
電車で新国立劇場へと向かう8人。座席の並び順が後の進路別に分かれてますね。わいわいと賑やかな面々と少し離れて仏頂面の香子が不機嫌そうに一人座っています。車内広告にスタリラの他校名が出ていて細かい所まで凝っていて嬉しかったり。
そんな平和な車中で、突然開演のブザーは鳴ります。
華恋がひかりからのメッセージを眺めているとキリンマークが大量に。あの場面、集合体恐怖症にはちょっとゾゾッとしちゃう。怖い。
キリンマークの車輪が転がるときには既に華恋とななの姿はありません。
ここで電車がガシャンガシャンって舞台に変形していく所、テンション上がりますよね!公開直前の生放送で言ってたみたいに、本当にロボットに変形して宇宙に行く話なのかと思った
・ワイルドスクリーンバロックのテーマとは?
突如幕が上がる、この「ワイルドスクリーンバロック」。メインとなるテーマは間違いなく『卒業』です。では一体何からの卒業か?
実はそれを示すヒントが作中にあります。どこかというとそれは第101回聖翔祭の決起集会前の雨宮さんと眞井さんのシーンです。
小道具室で2人がやり取りする場面で一瞬原稿やら飲みかけのジュースやらが散らばっている様子が映りますが、そこに何やらメモが書かれた付箋があったのを発見しました。そこには
『状況
選択
執着』
という言葉が並べられていて、恐らく雨宮さんが原稿を書く際に残したメモだと思われます。もしかするとこれが今回の劇場版の裏テーマになっているのでは?と考えました。ワイルドスクリーンバロックにおけるレヴューでは、2人ずつのペアで行われますが、そのそれぞれのレヴューの最終目的がこれら3つの内のどれかから卒業することに当てはまっているように思うのです。各レヴューの項目ではこのことに着目しつつ、語っていこうと思います。
✦皆殺しのレヴュー
レヴューが始まるきっかけとなったのは間違いなく純那の
「叶わないもの、天堂さんやあなたには。でも…今は、よ!」
という一言でしょう。
あの場面でななが純那を見つめる真顔が怖い。「それもう何回目?」とでも言いたげな瞳。ロロロがTVアニメ版より先の時間軸まで進んだ上での再演という先程の説で語るなら、きっとここで純那ちゃんが言い訳するのを聞いたのは初めてではないのでしょう。詳しくは狩りのレヴューで語るのでここでは割愛します。
このレヴューのテーマは、『舞台少女として停滞している"状況"からの卒業』でしょう。そう、先述した付箋メモの裏テーマです。
ともかく浮かれた様子のみんな、停滞していることに気付いていない面々、香子が言うように「いつまでもダラダラ走っとる」電車に乗る彼女たちが次の駅に着くことはありません。
それを見て「こいつらここでいっぺん殺っとかないとな、私が…」とでも言いたげに大場ななが舞台を転換させます。
この始まり方が本当にゾクゾクするほどカッコイイ。
『𝑤𝑖(𝑙)𝑑-𝑠𝑐𝑟𝑒𝑒𝑛 𝗯𝗮𝗿𝗼𝗾𝘂𝗲』の前奏に併せて大場ななが足でリズムを刻む所から始まり、1 vs 6の大場無双。オタクの「好きぃ!!」をこれでもかと詰め込んだような演出に痺れましたね。
ここでななは最初は脇差である『舞』(武器名)一本だけで戦い、その後遅れて電車から本差しである『輪(めぐり)』が運ばれて来ますが、あれは『輪』を使って華恋の過去を覗き見ていたから、ではないかと思っています。根拠?ありません。雰囲気です。(おい)
恐らく、華恋のスマホにキリンマークが出た時から時空は分断され、ななと華恋だけの空間と皆殺しのレヴューの空間とで分離したのかなと。なんたって"ワイルドスクリーンバロック"ですから。時空だって空間だって飛び越えますよ、そりゃ。そしてそんな芸当が出来るとすればこの舞台の出演者でもあり脚本・演出家でもある大場ななしかいません。ななと華恋が2人で話していた場面は構成上では皆殺しのレヴューの後に来ていますが、実はあのシーンは皆殺しのレヴューと並行して進んでいたのではないかと思っています。
・「これはオーディションにあらず」
皆殺しのレヴューが何だったのかというと、ななが言うように今まで(TVアニメ版)のレヴューとは立ち位置が全く異なります。これはオーディションではなく、いわば「舞台少女として舞台に立つ覚悟が出来ているか?」というテストです。ななはオーディションだと思っている甘っちょろい考えの共演者を次々に切り捨てていきます。そして最早自分に立ち向かうことさえしてこない純那のことは一瞥もくれずに刀を拾うついでかの如くボタンを切り捨ててしまう。あのシーンは性癖にぶっ刺さりすぎて多分全オタク殺された。
「列車は必ず次の駅へ──
ではあなたは?私たちは?」
ななの問いに、真矢は答える。
「舞台が、観客が求めるなら──私はもう、舞台の上。」
いやこの時点でこう答えられる真矢すげぇな!この人やっぱりすげぇわ!と思った瞬間です。クロディーヌですら「はぁ?」と訳わかってなさそうなのに、真矢だけはこの時点で"台詞"として返してるんですよね。だからクロディーヌは「ちょっと、喋りすぎ」と脚本家ななから失格判定を受けて上掛けを落とされてしまうし、真矢だけは上掛けを落とされない。
そして棺桶型のポジション・ゼロに刀を刺して「ふぅ…。」って前髪を掻き上げるな大場なな!!オタク死ぬやろ!!あそこ妙に作画良くて笑っちゃった。自分の魅せ方、分かってるなぁ~。
・「何だか、強いお酒を飲んだみたい」
公開当初、舞台創造科の中で物議を醸していたこの台詞。何かの引用か?と思ったりしましたが、誰の考察でもそれらしき引用は見かけなかったので恐らくななのアドリブ。
「酒に酔うこと」をキリスト教では"罪"とされているそうです。トマトの項でも話したように舞台少女と罪は同義とされています。上記のななの台詞は今の停滞した現状に"酔っている"自分たちのことを揶揄して言ったもの…なのかも知れません。
そしてこの台詞を投げかけられた時、純那は戸惑うばかりで「だからぁー」と挑発するような目で三度同じ台詞が投げかけられても、
「私たち、まだ未成年じゃない」
とマジレスしてしまいます。あの場面では舞台少女として台詞を返せるか、という最後のテストだったのですがそこでついに失格判定を受けた純那の首に血しぶき(血糊)が浴びせられてしまいます。どう見てもあれは首から吹き出てた。
ついでに他の皆も。
初見時はロロロ以上の突然のホラー展開が始まり、本気で怖かったです。(怖いの苦手)
ちなみに血糊はイチゴ味で甘いらしいです。血糊を口にした香子の「…甘い。」って言い方、天才すぎる。
✦怨みのレヴュー ~香子と双葉~
ここから時系列は飛びまして、ワイルドスクリーンバロックを順に追いたいと思います。じゃないと終わりが見えない。
このレヴューは一言、ふたかおの痴話喧嘩です。
…これだけで済ませるとどっかから灰皿とか飛んできて「表出ろや」って言われそうなんでもう少し語ります。
先述した雨宮さん付箋メモの3つの言葉の内、ふたかおに当てはまるのは『関係性への"執着"』です。
香子が新国立第一歌劇団への見学に不参加を表明した後、ランドリーでクロディーヌと出くわして「あんたが…!」と言葉を詰まらせるシーンがありましたが、あの台詞の続きは恐らく「あんたが余計な事言い出さへんかったら双葉はウチから離れることはなかったんや!」みたいなことでしょう。そこで自分の中にある憤りの正体に気付いて、「ウチが、一番しょうもないわ」と零したのでしょう。
香子と双葉も華恋とひかり同様、「二人で世界一になる」という「約束」で繋がっている幼馴染です。ただかれひかと違って、この二人は幼い時から今までずっと片時も離れることはなかった。それ故にお互いにどこか依存し合っているような関係性です。華恋とひかりと同じくこの二人も「ずっと二人で」という執着から卒業しなければいけない、という課題が残されています。
この怨みのレヴューではその執着心がより強い香子によって、タイトル通り濃い昼ドラを見ているかのようなめくるめくレヴューの世界が展開していきます。笑
最初の香太夫と鉄火場のクロはんの掛け合い、いいですよね。双葉のことを「ウチの大事なお菓子箱」と表現するの、グッとくる。香子は言葉遊びのセンスが高いですよね。余談ですが、ここの「さぁ、はったはった!」って声は監督と副監督と脚本の樋口さんがアテレコしてるそうです。(舞台挨拶での監督談*3
そこへ何故かデコトラで突っ込んでくる双葉はん。あの両手上げて腰くねってしてる謎ポーズ、すき。笑*4
いつも思うんだけど階段で鍔迫り合いをしている時の香子、後ろ向きに上がりながら殺陣してるの凄ない?
セクシー本堂は監督の実体験を参考にしている部分もあるらしく(舞台挨拶談)、なかなか生々しくツライ場面ですね…。笑
「うっと」と「セクシー本堂」は今年の流行語大賞候補にノミネートされると思います。
何故デコトラ???????
パンフや他媒体のインタビューでも監督が「10年くらいアニメ史に名を残すくらいの最強のデコトラを描きたかった」みたいなことを仰ってますけど、何度観ても
いや何でデコトラ?????????
って感情になるので面白いですよね。スタァライトは後世に語り継ぐべきデコトラアニメです。分かります。
えっと何の話してましたっけ?ふたかおの話でしたね。
香子は清水の舞台から飛び降りるをまさに字のごとく行い、それくらい本気の覚悟で双葉と縁切りをしようとします。スタイリッシュデコトラバンジー(ノーロープver.)
ここで香子の手を取って双葉が「香子ばっかりアタシを独り占めして…ずるい」と吐露しますが、初めて双葉が子供のような我儘を言えた感じでいいですよね。
双葉にとっての課題は「香子の為と言い訳せずに、自分の為に生きる道を選ぶこと」でその意味では『誰かの為に生きるという"選択"からの卒業』がテーマなのかも知れません。
ポジションゼロ型のバイクのキーを「お前のいる場所がアタシのポジションゼロだ」と言わんばかりに、再会の誓いとして左手の薬指に掛ける双葉。二人の間の執着が清算され、「それぞれの場所でトップスタァになって、舞台で会おう」という新たな約束が出来た瞬間ですね。はい。
ご結婚おめでとうございます。
✦競演のレヴュー ~ひかりとまひる~
キリンに唆されて舞台へと上がってきたひかり。ひかりが華恋からのメッセージを受け取った時間が『5/15 20:13』だったんですが、ロンドンと日本の時差は8時間あり、日本の方が早いので華恋ちゃんがメッセージを送ったのは朝方の4時頃ということになりますが、まさか夜通し行われているの…?舞台少女ってブラック…。
もしかすると『再生賛美曲』の歌詞にもあった、
『私たちは何者でもない 夜明け前のほんのひと時』
の部分を表現しているのかなと思ったり。考えすぎかもしれませんが。
話を戻しまして、地下鉄に乗ってロンドンから舞台へと戻ってきたひかりは華恋のいる舞台を目指して走ります。この地下鉄の車体に「22524」という数字が書かれているんですが、何か意味あるんですかね?2022年5月24日に何かが起こる?
電車については詳しくないのでもしかすると単なる車体番号みたいなものなのかもしれませんが。
舞台へと上がったひかりを待ち受けていたのはミスターホワイト…ではなく露崎まひる(とスズダルキャット)。オリンピック風の舞台の高台で高らかに選手宣誓をするまひる。TVアニメ版でも一味違うコミカルでポップだけど最後まで激重感情たっぷり!なレヴューを行ったまひるらしい舞台が展開されていきます。
オリンピックに則って様々な競技の衣装に身を包み競争する二人。乗り気でないひかりもちゃんと衣装には着替えてそれなりにこなしているのが彼女の実力の高さを窺わせます。この時のレヴューの歌詞がちゃんとそれぞれの競技に対応したワード(『ストレートに』『シンクロニシティ』『一本取って』等)が散りばめられていて、中村彼方先生やはり天才…!と気付いた時とても感動しました。
ところが一向にまひると向き合おうとしないひかりについにまひるの女優魂に火が付きます。「神楽ひかり…大嫌いだったの、あなたが」からのまひるちゃんの真顔、めっちゃ怖い。普段にこやかな人を怒らせたら怖いってこういうことだよね。
ひかりを庇うように前に立ったミスターホワイトの頭も容赦なくぶっ飛ばすまひるに流石のひかりも恐怖に駆られ逃げ出します。
ひかりが奈落へ落ちて逃げ回る舞台裏はスタァライトの舞台版で実際に利用された会場(銀河劇場や舞浜アンフィシアター)がそのままモデルになっているそうです。(舞台挨拶談) 舞台とのリンク感も大事にしているスタァライトならではの演出ですね。
どんどん追い詰められるひかりの恐怖心に観客も巻き込むかのようにサラウンドであちこちからまひるの声が聞こえてくる演出、めっちゃ怖くて泣くかと思いました。(ホラー苦手)
とうとうまひるに追いつかれたひかりが突き落とされる前に見たのが過去に自分が送った手紙を持つ幼い頃の華恋というのが切ないです。ミスターホワイトクッションに受け止められて、そこでようやく泣きながら「怖かったから逃げ出したの…ごめんなさい」と本音を打ち明けるシーンは初見時、私が最初に涙腺に来たシーンでした。TVアニメ版の時からあまり自分の気持ちを表に出すことがなかったひかりが、初めて見せた等身大の姿。
今まで謎に包まれていた、ひかりがロンドンへ戻った理由がまさかの逃げただけだったということに軽い衝撃を受けました。
やっと本当の姿を見せてくれたひかりにまひるも普段の穏やかな表情に戻り受け止めてくれる場面で、ホッと緊張が解かれた観客は私だけではないはず。笑
ここの「決めたから。舞台で生きていくって。」と語るまひるちゃんの表情、好きすぎる。
先程落としたはずのひかりの上掛けボタンを金メダルのようにしてひかりの首にかけてあげるまひる。レヴュー曲のメロディーが『舞台少女心得』のオマージュになっていてまた涙腺が緩んでしまいます。ここにまひるちゃんがひかりちゃんの髪をファッサーするとこ好きすぎ委員会を作ろう。
かつて自信を無くしていた時、華恋からのキラめきを受けて、背中を押してもらって舞台に立つことができたまひる。そのまひるが今度は舞台から逃げ出したひかりの背中を「走れ!神楽ひかり」と華恋の元へと送り出してあげる。まひるの成長っぷりに本当に泣かされます。
このレヴューのテーマもふたかおと同じく『特定の誰かへの"執着"』でしょう。
まひるから華恋への執着。TVアニメ版の5話の最後では「やっぱり、大好き。」で締め括られていて実はまだまひるから華恋への想いは終わっていなかったことが示唆されています。そんな華恋が他の何よりも大事にしている「運命の相手」である神楽ひかりに対して、まひるが複雑な感情を抱えていただろうことは察しがつきます。
今回のレヴューは「演技だった」と明かしていましたが、「大嫌いだった」「そんなんじゃ任せられない」という台詞や歌には恐らく本音も混じっていたと思います。
TVアニメ版でひかりが突然姿を消した時、今回の劇場版でロンドンへ逃げ出した時。ずっと近くで華恋のことを助け、見守ってきたのは間違いなくまひるです。そんな彼女にしか出来ない役を演じることで、今まで言えなかった本当の気持ちをぶつけたのだと思います。
逃げ出した恋敵(ライバル)との決着(ケリ)をつけ、華恋への執着にもケリをつけて、共演者(ライバル)として舞台へと送り出してあげることが彼女に残された最後の課題だったのでしょう。
ひかりを舞台へと引き上げて叱咤激励する役はまひるにしか務まらない。正に適役でしたね。
最後の「夢咲く舞台に 輝け、私」と自分に言い聞かせるように口上を告げるまひるが輝いていて素敵です。彼女の未来は眩しくキラめきに溢れていると確信できるシーンでした。
ついでに知らない人の為に補足:今回の舞台の共演者ともいえるミスターホワイトとスズダルキャットも同じアニメに出てくるライバル同士という設定。こっちもまた競演していたのですね。
纏め切れなかったので、感想②へ続く。笑
✦注釈✦
*1:TVアニメ版の後の時系列となる舞台版#2では華恋が「燃え尽き症候群」に陥り、満たされているという描写があった。TVアニメ版の華恋も同様の状態に陥っていたと見ていいだろう。
*2:アニメのアフレコが初めてだった岩田さんは1話のアフレコ時に走るシーンで実際にマイク前で走って音を立てて怒られたり、文字が見えなくなるくらい台本にびっしりメモ書きをして音響監督さんに「もう練習するな!」と言われるくらいひたすら練習をしたり…とにかく自信がなくて努力を重ねていて、その成果は視聴者から見ても分かる程上達していた。ライブでも大先輩の三森すずこさんが出演できない時、代役として三森さんのパート歌唱を一番多く担当し、自信も歌唱力もぐんと上がっているのが分かり、舞台創造科はみんな岩田さんの成長を感じて涙した。
*3:右側から聞こえるのが小出監督の声だそうです。監督と樋口さんの声は内緒らしいです。)
*4:特別映像②で生田輝さんもあの謎ポーズに言及して、「あの格好でどんな気持ちで口上言ったらいいのか分かんなかった(笑)」と話されていたのが面白かったです。